空白依存症

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zoom RSS MGMT『Congratulations』(2010年)

<<   作成日時 : 2011/08/01 02:22   >>

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僕は、MGMTの1stアルバムを当時華麗にスルーしている。サイケという音楽そのものが分からなかったのもあるし、「Kids」のような代表曲は明らかにダンス・アンセムだった。ダンス・ミュージックと他の音楽が混沌として混ざり合い、あまり良い印象が無かった。
実際は、彼らはそのダンス・アンセムによって時代の寵児となったのだったが…。
そんな印象がまだ残っていて、本作は路線が変わったという評判(その一部はフリッパーズギターに聴こえる、とのものだったり。多分3rdの頃の彼らだろう)を聴いてはいたものの、結局購入することは無かった。


しかし、ブログリンクもしてもらっているyabori氏が激推ししていたり、僕も何曲が聴いてみたりすることで興味が湧き、話題作と言うこともあり、今年に入ってレンタルで聴いてみたのだが、なんだい素晴らしいじゃないかい。


本作には、前作のようなゴージャスなサウンドのダンス・チューンは全く見当たらない。表層を滑るような、ただただ甘美なサイケ・ポップが、しとやかで時に可愛らしくこじんまりとしたメロディーを携えて、全編に渡ってずらりと並んでいる。
この「こぢんまり」感が、「B級感」とか言われてる部分なのかもしれないが、本人たちも似たようなことを言っている。「僕ら好きなのは、そのバンドのカタログからいい曲を見つけ出すことなんだ。」「ここに入ってる曲ってどれも、他のバンドのアルバムでも一番有名で人気があるような曲じゃなくって、でも自分達がほんとに好きな曲みたいなんだよね。知られてないんだけど、自分はすごく好き、みたいな」


より具体的に音楽性を言うと、60年代のサイケ・バンド、ラヴ(僕はちゃんと聴いたことないんだけど)に、70年代後期〜80年代のラフ・トレード、ポストカード周辺……すなわちネオアコのようなギターが組み合わさったような、とことん甘いサイケ・ギター・ポップだ。というものの、僕はそんなにネオアコ臭は感じないのだが……。
プロデューサーの一人には、元スペースメン3のソニック・ブームの名が。ガレージサイケのアイコン的存在とのタッグというのも、本作の世界を覗くには取っ掛かりの一つになるだろう。
この甘ったるさはディアハンターやアトラス・サウンド、あとはビーチハウスあたりとガチンコで戦えるだろう。まあ、M-2「Song For Dan Treacy」のイントロやM-7、M-8のように不穏な部分もちらほらと見えるが…。


しかし何故かれらは2ndでこれほど変貌してしまったのか?
手元にある2010年6月号のスヌーザーによると、中心人物のベンとアンドリューは、大学時代、MGMTの前身であるマネジメントというバンドをやっていたという。
「Kids」はその頃からあった楽曲で、「架空のポップ・バンドの、誰も知らない偽物のダンス・ヒット曲」というアイロニーのある曲だったし、いわばファンタジーだった。だから彼らはこの曲をライブではカラオケで歌っていた。(そして、今もライブではそうしているらしいが、しかしお客側はそんなアイロニーなど分からない。だってMGMTの「Kids」を初めとする曲は大ヒット・アンセムになってしまったのだから。)

マネジメントは不発のまま解散し、大学卒業後ベンとアンドリューはそれぞれ別の道を選ぶことにした……その矢先に、レコード会社にデモ音源がフックアップされ、MGMTとしてデビューすることになる。そして、商業的大成功。彼らはクラブ・ヒットを飛ばしたいわばセレブの世界に片足を突っ込んでいたのかもしれない。1stでの「Time to Pretend」の歌詞は典型的なロックスターの生活を描写した皮肉的な内容となっているらしいが、まさに自分たちがそうなってしまう……。そんな恐れがあったのではないだろうか。

しかし、彼らはセレブにならなかった。「僕ら、ああいうタイプじゃないんだろうな」とインタビューでも言っていたが、本作を聴けば分かる、彼らはただの音楽おたくで、純粋なミュージック・ラヴァーだったのだ。本作は、前作の反動でもあり、スターの道を歩みかけて翻弄される自分達をすぐさま見つめ直し、あらゆる誘惑を軽々とかわし、ただただ誠実に音楽愛をこめた作品なのだ。本作が素朴で、逃避的で、でも純粋な感じがするのはそのためだろう。
この2ndが本来の彼らなのだろうとスヌーザー(タナソー)では言われていたが、それは本当であろうが間違いでもある。彼らは1stの音楽性を否定はしていないからだ。本作が彼らの本音に確かに近いだろうが、様々なバックグラウンドを持つミュージシャンなのだろうと僕は思う。3rdがどうなるかまだ分かんないしね。



彼らがただの音楽好きだというのは曲タイトルや歌詞にもあらわれている。M-7「Brian Eno」はブライアン・イーノは超人だ、みたいなことをずっと歌い続ける内容になっているが、だからといって100%皮肉という訳でも無く、彼に対するリスペクトも含まれているように思う。M-8「Lady Dada's Nightmare」は言わずもがなレディー・ガガをもじったものだが、インタビューでは別にレディー・ガガをディスっているわけでも無いという。まあ、この2曲は音楽好きな人間のただのジョークなのだろう。僕らだってたまに、音楽好きにしかわからない悪趣味なネタをツイッターでpostすることがあるだろう。そんなちょっとした悪ふざけなんだろう。


M-9「Congratulations」は飛び抜けて素晴らしい。これも成功者へ対する皮肉を歌っているというが、その皮肉の刃はかつての自分達にも向けられているはずだ。最後に聴こえる、まばらな拍手――僕のような人間だと「おめでとう」+拍手というとアニメのエヴァンゲリオンのエンディングを思い出してしまうが――これを田中宗一郎は「薄気味悪い拍手」と評しているが、僕にはそう感じなかった。これは、成功という誘惑をヒラリとかわし、誠実な作品を作り上げたことに対する、自分達に対する「おめでとう!」という意味も込められているように思った。それが例えまばらな拍手でも、それは最っ高の祝福だ。音楽愛から生まれたマニアックな作品は最低でも自分達がその価値を知っているのだから。そして、大勢の拍手はもう既に1stの時に、たくさんもらったのだから。そういえばジャケットも、襲い掛かるモンスターのような波に右往左往するキャラクターが描かれているがこれも自分達のメタファーなのだろう。しかし、この表紙がギャグやジョークの類に見えるように、彼らは軽々とかわして見せた。そのことに対しての「おめでとう!」は、本当に素晴らしく思える。



まあ、M-9並みのメロディーの曲があと何曲か入っていれば、メロディー主義者を自称する僕も9.0とか付けれたのだろうが、それでも雲間もしくは木々の葉っぱの隙間から降り注ぐ陽光のようなフォーク・サイケ「I Found A Whistle」「Siberian Breaks」なんかもあるので、それで溜飲を下げることにしよう。


とにかく、聴かず嫌いで申し訳なかったMGMTさん!2010年、インディーロックの傑作のひとつ。や、傑作なんて大層な修辞は似合わないかな?とことん愛らしいサイケ・ポップだ。



評価:8.5






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コメント(2件)

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トラバありがとう!

たびけんやっぱり食わず嫌い多いね(笑)

俺もそうなんだけど(笑)

先日とかフリッパーズギター聴いてぶっ飛んだわ(笑)

俺もブライアンイーノには皮肉と敬意が込められていると思います。

実際彼らもよくブライアンイーノ聴くみたい。

いくらでも深読みが可能な作風だから、作品に奥ゆきがあって面白いのかなとも思います!
boriboriyabori
2011/08/01 11:29
>yaboriさん

話題のバンドとか気になるジャンルとかはyoutubeでとりあえず視聴するから、偏見みたいなのは無いようにはしてるんだけどね笑
でもこのMGMTは完全に食わず嫌いって感じだった。

フリッパーズは最近になってまたよく聴いてるけど、凄いよね。以前は2ndばかり聴いてたけどいまはヘッド博士〜を聴いてて、ほんとぶっ飛んでるよ…。

以前ヤボリさんがMGMTの影響源をTogetterに纏めてましたよね?これ聴いて彼等のルーツをもっと知りたいなって思いました。
たびけん
2011/08/01 20:59

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