ASIAN KUNG-FU GENERATION 『マジックディスク』(2010)【2】




前半の全曲レビューで力尽きてしまったんだが(笑)気合を入れなおしてもういっちょ。


一聴すれば分かる通り、ヒップホップ的アプローチや、ストリングスやピアノ、パーカッション、ホーンなどのバンド外の音も入れていて、各曲が個性的であり、全体的には過去作に比べれば遙かにカラフルになった。かつてはメンバー4人で鳴らせる楽器だけでやっていく、と言っていたバンドなのに。もうそういうこだわりは無くなり吹っ切れたのだろう。というか、『ワールドワールドワールド』でセッションで曲を構築していく方法はある程度突き詰めたので、そこからの脱却なのだろう。
今回は後藤のデモを元に、それをバンドで肉付けしていくという方法でつくられたという事実がそれを裏付けている。
そして、この音楽的振れ幅のある楽曲群は、どれも個性を放っていて、一曲一曲ベクトルが違う。「一曲入魂」で、シングルになりそうな曲がたくさんあるんだけど、それを並べてみたら、どれもオープンでポップな方向になっているという。そういう意味で、アルバムの統一感は無視しているはずなのに、今の後藤ひいてはアジカンのモードが十二分に反映され、風通しの良い空気が全編を貫いている。


歌詞は、初期から『ワールドワールドワールド』までで培ってきた、比喩や抽象的な言葉の積み重ねによる(本人いわく叙情的な)詞が、『サーフブンガクカマクラ』で行った私小説的、叙景的な歌詞をうまく吸収して、血肉化されたように感じた。「叙情一辺倒は危ないと思った」と後藤が語っていた通りで、また「俺たちがずっと変わらずに聴いてたりするものって、その時代をすごい色濃く映しているものだったりするんじゃないか」とインタビューで言っていた通り叙事的な要素を意識的に入れている。


その最たるものはM-4「さよならロストジェネレイション」だろう。1986のバブル崩壊、そして2010年の現在。年号がきっちり歌われていることろとかね。
この曲については、個人的に語らせていただきたいのだが、僕はロスジェネというのは世代じゃないから良く分からないが、自分達の世代もそうとうロストしてるというか、むしろロストするものすら持たなかった世代なのかなとか思っていたりする。小学生の頃、登校拒否が「不登校」と名前を変えて問題化され、そしていじめ、子どもの自殺・・・あとは「キレる」など。そんな問題がまさに上がっていたのが僕が小学生の頃だった。リアルタイムで見ていないけれど「エヴァ」があって、ナイーブな現代っ子っぽい主人公像なんかは時代とリンクしてヒットして、それ以降ナイーブな「セカイ系」が次々と出てきて…。今の子どもたちはやれ「無感情」だとか「大人びて可愛げがない」とか、「何考えてるか分からない」とか…。少年犯罪がピックアップされたのはそのあとで、僕は中学生の頃だっただろうか?

僕は大学の教育系の授業で、教授が「今の子どもたちは「空虚感」がある」なんて言ったとき、「いやいや、今の子どもだけじゃなくて俺らの時代からじゃん!」と思った。アジカンの世代が「ロスジェネ」なら僕達の世代は「空虚な時代」だったと言っていい。

そんなことを思っていたから、「ロスジェネ」じゃないのに、自分たちの世代を言い当てられているようで、凄く共感した。




さて、基本的には本作は支持である。っていうかどう考えても悪いとは思えないし、2010年のアルバムの中で最もよく聴いたアルバムだ。だが、問題点や引っかかったところも少し上げていこう。


まず、サウンドに関して、変化自体は当然支持だが、ピアノやストリングス入れたからと言って、「アジカンにしては新しい」だけであって特に目新しくもないだろうという指摘は、あるっちゃある。ただJ-POP然としておらず、あくまでインディー上がりのロックバンドとして鳴らすことを可能にしているのは立派だ。「新世紀~」や「ラストダンス~」」は「アジカンにしては」という前置きを必要とせず、純粋に新鮮だと僕は思う。


ただ、こんなにいろいろやったのにもかかわらず、僕や周りの友人の感想と言うのは「やっぱアジカンだったね!」だった。これは当然良い意味でなのだが、これだけ振れ幅があったのにもかかわらず、あの4人で鳴らすとこんなにも「アジカン然」としてしまうのは、ちょっとつまらないかなと思ったりする。
これは前作『カマクラ』の時から思っていて、やっぱ洋楽ファンの層にどうも受けにくいのはやっぱこの「下北系からのし上がってきて、セッションの方法論を経て、確立されたアジカン流・ギター・ロック・サウンド」の血の濃さが、いろいろな方向へ曲を振っても、いい意味でも悪い意味でも上手くまとまってしまうから、なんじゃなかろうか。ファンとしてはだからこそ良いわけで、変化を続けても付いていく理由なんだろうけどね。

僕はゴッチの本作のデモを聴いてみたい、などと思う。多分、もっとめちゃくちゃというか、方向性がバラバラだったと思うのだが、それを4人で、アジカンで鳴らすとこうなるという。だからゴッチのソロとか聴いてみたい。

もっとハミ出てもいいと思うのだ、アジカンは。もっと汚い音で録ったり、もしくはポストロック以降の音響を通過したようなきれいな音で録ったり、など。この程度の変化でゴチャゴチャ言いすぎなんだよな、ファンは(笑)。


そして、歌詞に言及しておく。田中宗一郎の言葉を借りると(これは音楽的な面にも言及しているが)「総じて重苦しい現状認識を前提としながらも、(中略)何かしらのカタルシスに向かっていこうとする曲構造が、いつになく軽快で、晴れやかな印象を残す」「後藤正文がどうしても表現したかったという「来たるべき新しいムード」の反映に他ならない」だそうですが、凄く良く分かる。アジカンはずっとヘヴィーな現実を歌ってきたし、でもそれを打ち破ろうとしたり、それでも生き延びたいというようなささやかな希望のようななモノを、同時に歌ってきた。歌詞へのアプローチや方法論は変わったけれど、それは「君繋ファイブエム」から笑っちゃうほど変わってないのだ(もっと言えばその「希望のようなモノ」は、コミュニケーションの積み重ねなのだ、と歌ってきた)。

しかし、僕は『ワールドワールドワールド』の時にも似たようなことを書いたのだけど、やはりどうしても現実から理想へ移る際の「飛躍」が気になってしまう。
「新世紀~」も「橙」も、重苦しい現状を羅列するが、サビでは甘い理想主義になってしまっていると言えるし、某ブロガーが言っていた通り「ディケイド変わったから、その勢いでムードも変えちゃえ!」みたいな安易さも感じられなくはない。
その辺はアジカンの限界であって、そこを補うのは、例えば詩を読むだけでは感じなくてもそれが歌になったときにイントゥー出来て感動する、というような経験がおそらく邦楽リスナーにはあると思うが、そんな「音楽」としての力や、メロディーの助力なのだろう。そういう意味では、アジカンは、詞とメロディーと一致した時のケミストリーを大事にしているのだと思う。



まあ、彼が「音楽は焼け野原を「焼け野原だ」と表すものではない」と言うのは良く分かる。彼等と同世代のSyrup16gやART-SCHOOL、The Back Horn辺りですら、「焼け野原」を執拗に描くものの、やはりそれだけでは無かった。でも、アジカンにはもっと現実も歌ってもらえたらなお良いような、気がしないでもないというのが僕の考えだ。



しかし、何度も言うように本作、そしてそれ以降のアジカンの方向に関しては支持し、期待している。『ソルファ』で売れて傷ついて、『ファンクラブ』以降は流れに飲まれないようにアレンジの幅を広げる修行の旅みたいな(笑)のに出て、ちょっとマニアックな方向に隠れていたけど、『マジックディスク』でまた「やってやるぜ」って言ってくれたんだと思う。ジャンルが島宇宙化が進む中、俺たちが「ロック」って太字で書きますよ、もう一回セールスからもファンからも、アンチからも逃げずに正面から傷つきますよ、と。それが正解かは僕には分からないし、USインディーのようにただただ音楽楽しそうに奏でる奴等や、日本ならスーザンやシガベッツみたいに「俺たちの好きな音楽やれてるし最高っしょ」みたいなバンドも大好きだが、アジカンの姿勢は応援したくなる。
オープンに、ポップに、そして肉感的な方向へ行っている今のアジカンなら、荒波を乗りこなせる気がする。



評価:8.9





そして、これは蛇足というかオマケですが、『マジックディスク』聴いたとき、ゴッチはエヴァ観たのかな?と思ったんだけど、クッキーシーンのインタビュー等でエヴァを「みんなで頭抱えて悩むのはもうやめにしよう」と退けていて。でもこれはエヴァに対する誤解でしょ。そもそもエヴァンゲリオンって「祝福」の物語じゃん。あの最終話は、皆がそれこそ「安直な共感を望ん」で、一つになったのにも関わらず、シンジとアスカはもう一回傷つきますっていう話じゃん。散々今まで傷ついたけど、もう一回傷つけあいますよ、と。それが人間だからと。それに対しての祝福じゃない。「死ぬまで細胞は個の壁を乗り越えないだろう」っていうのもそれっぽいと思ったのに。エヴァではあの2人以外は個の壁乗り越えちゃうから。「新世紀の~」のPVも凄くセカイ系っぽかったんだけど???まーエヴァは厳密にはセカイ系じゃねーよと俺は思う。ということで、ゴッチはエヴァ観ろ!ということで笑
ミイラズの時と似たようなまとめになっちった。




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